本日はお忙しいところ千葉・東京邦楽合奏団の周年記念演奏会にご来場いただきまして、
誠にありがとうございます。
 「邦楽って楽しいの?]「もちろん!」をモットーに活動を始め、それぞれ定期演奏会が10回目、5回目を迎えることを記念して合同演奏会を開催することになりました。この両合奏団は、邦楽が市民生活に密着した音楽として認められるための活動として貢献できればとの思いを込めての結成でした。
 今回開催のホールは1800人収容の大きなホールです。通常、家元などの大きな組織を除いて、邦楽の演奏会でこのような大ホールでの開催はごく稀な事です。我々がこの決断をしましたのは、過去の実績がこの事を可能にする状況が生まれたからでした。この演奏会を開催するに当たっては千葉・東京の合同演奏会なので、実行委員会を立ち上げて企画の段階から団員が積極的に参加して今日を迎えた訳ですが、チケットが出来上がって直ぐに満員札止めの状況になってしまったのです。団員のチケット希望枚数がキャパの1800名をはるかに越える数になってしまったのです。団員でチケットの制限や調整するほどの状況でした。嬉しい悲鳴です。又この事は私が目指していた邦楽が普及し始めてきたのだとの思いでした。邦楽の普及はまず団員の熱意から始まるのだろうと思っていました。今まではなかったことでしたが、千葉邦楽合奏団を結成して10年、東京邦楽合奏団を結成して5年の歳月を経て、ようやく実現しつつある姿を見る思いで、わくわくした気持ちで本日の演奏会を迎えております。
 停滞気味の邦楽界の活性化が叫ばれて久しく、その間、文科省が義務教育の指導要領改訂で子供たちに邦楽器に触れる事が義務づけられ期待は出来る状況があるものの、遅々として進んでいないのが現状です。我々は邦楽に携わっている方々よりむしろ一般の皆様へ目を向けてコンサートを企画して参りました。千葉邦楽合奏団と東京邦楽合奏団の定期演奏会は一般の方々に参加していただき活気あふれる舞台を提供し、大変盛り上がっております。
 演奏会で取り上げる曲を決める私のスタンスは、まず私が楽しめる曲が大前提にあります。団員はその曲の練習を繰り返していくうちに、徐々にその曲の魅力を理解し、自らも楽しんで練習に励む状況を作ろうと心掛けております。そこから生まれた団員自らが味わう邦楽の楽しさを、一般の皆様にも味わって欲しいとの強い気持ちが大きなエネルギーとなって、今日のこの大ホールが早々とチケットがほぼ完売となる活気溢れる状況が生まれたのでしょう。このような好回転が邦楽の普及には不可欠の要件になっているように感じられ、今後もこのスタンスを崩すことなく、邦楽の普及発展に尽力出来ればと念じながら、精進を重ねていく所存でおります。今後ともご支援、ご鞭錘の程よろしくお願い申し上げます。
 最後になりましたが、今回の周年演奏会には、「竹取ものがたり」で脚本をお願いいたしました西田豊子先生をはじめ、多くの方々のご協力を頂いております。皆様のご助力のお陰で今日の演奏会を迎えることが出来ました。心より深く感謝申し上げます。

 

二つの邦楽合奏団のジョイント企画の成功を先ずもって心よりお祝い申し上げます。
和風の食事と伝統芸能に食文化、芸術文化の媒体としてのそれぞれの役割を持たせるならば、自らの文化を語る上で、多くを必要としません。
味わいのある食材、美しい食器、洗練された作法が前者に、そして後者には心躍る魅惑的なメロディー、巧みな楽器と技法が伴うならば、共に最高の国際文化交流の舞台を演じるものと思います。
さて、そういう私は、永年国際舞台で海外の人たちと公の仕事に携わって参りましたが、そこで思い起こすことといえば、はたとわが身の無芸(大食?)振りに気づき、片身の狭い思いをすることの何と多かったことかということです。
そうした私も昨年一線を退き大学で教鞭をとる傍ら、妻の紹介で偶然師事する事となった坂田誠山先生の“邦楽は楽しきかな”を座右の銘とし、“改めるに憚ること勿れ”と寸暇を惜しみ、今や琴奏者の妻との合奏を将来夢見て尺八修行に励む毎日です。
日ごろ子どもたちを含め広く国民に邦楽の楽しさを伝えようとされている先生の並々ならぬご意志には強く共鳴するものがあり、そのためにも、千葉、東京の邦楽合奏団をここまで育ててこられたこと、アマチュアの継続する意志と情熱を今回のジョイントに結晶化されたご努力に改めて拍手を送りたいと思います。
グローバル化が進展する21世紀、我が国の邦楽を世界に誇りうる国民的財産にまで飛翔させる上で、今回の合同演奏会がそうした着実な歩みを確かめる貴重な機会になるものと確信します。

 本日はご多用にもかかわりませず、ご来場いただきまして誠に有難うございます。
 今日、このように大きな素晴らしホールで周年記念演奏会が開催できますことは、ご来聴いただきました皆さまはじめ、助演いただきました諸先生方、長年にわたって両合奏団を応援し、支えていただいた皆様のご支援・ご声援の賜と改めて厚く御礼申し上げます。
 両合奏団の代表を務める坂田誠山氏が、一般の方々にもっと日本の伝統音楽の楽しさ、素晴らしさを伝えたいと10年前に千葉邦楽合奏団、続いて東京邦楽合奏団を立ち上げ、両合奏団とも年一回の定期演奏会を続けて参りましたが、お陰さまで両合奏団とも年を重ねる毎にリピーターの方が多く、毎回ホールが満員という盛況のもとで開催してまいりました。
 全国には(アマチュアの)邦楽合奏団はいくつもありますが、両合奏団の最大の特徴は、主宰者の坂田誠山氏が音楽監督・指揮者兼トップレヴェルの尺八演奏家であること、加えて専属作曲家石井由希子氏の存在があります。これによって、一つの演奏会で伝統音楽の素晴らしさと肩の凝らない楽しい音楽を同時にお聴きいただけることが人気の秘密かもしれません。
 しかしながら、例え周年記念演奏会とはいえ、今回このような大きなホールでの開催は、(“勢い”で決めたとは言え)当初は甚だ心もとない限りでありましたが前倒しの準備と練りに練った企画、加えて長年「日本音楽集団」の副代表を務めた坂田城山氏の豊富な経験による適切な指導によって、皆様をお迎えできることは私としても今は安堵と達成感で一杯でございます。 これからもこの演奏会を励みに坂田誠山氏のもと、団員が一意団結して邦楽の普及と発展に一層頑張っていく所存でありますので引き続きご支援・ご声援の程お願い申し上げます。
 本日は誠に有難うございました。


■プログラム&キャスト&曲目解説■

●祭りへの序章<改訂初演>                    石井由希子作曲
 指  揮:坂田 誠山
 尺八独奏:須藤 香山・森 佳久山・萩原 蘊山・冨田 翰山
 尺 八1:奥村 峰山・森田 天山・正道 E山・黒武者翔山・毛利 笙山・大川礼峰山
      出沼 智山・栗子照雄山・図子 佳山・富田 浄山・水落 公尹・渡辺 誠澄
 尺 八2:中野 兆山・伊藤 凌山・林  嵐山・功刀 幾山・安田疏詠山・村石 遥山
      千島舟静山・大場 敬三・鈴木 故山・遠藤  山・米山 良山・田中錦祐山
 三 味 線:中村 幸子・生村 伸子・大徳 良子・宮田美智子・神山さよ子・奥田惠美子
 箏 独 奏:樹本佳音里
 第 1 箏:梅田佳予子・山口喜久子・大塚真知子・渡辺 澄子・鹿島 綾子・平林 容子
       鹿島  葵
 第 2 箏:菅井  愛・中島 純子・内野 典子・岡部 節子・吉田 麗子・金田  忍
 十七絃箏:大宮 椎子・石井由希子・岡田喜代子
 打 楽 器:若月 宣宏

 この曲は東京邦楽合奏団第2回定期演奏会のために作曲。数年前の夏、青森のねぶた祭りを見に行った。
笛や太鼓のお囃子にのって、雄々しく行進する祭りの主役<ねぶた>。その勇姿は、まさに炎のように夏の夜空を焦がしていた。「ラッセラッセラッセラー」の掛け声とともに、エネルギッシュな跳ね人(ハネト)が祭り気分を最高潮に盛り上げていた。そのパワーに圧倒されつつも、見ているこちらも思わず跳ねたくなった、そんな祭りであった記憶がある。今回は三味線を加えた編成に改訂して演奏します。 (石井由希子記)


●さくらの主題による学園讃歌「光り」              石井由希子作曲

 指揮・尺八独奏:坂田 誠山
 箏 独 奏:樹本佳音里
 尺 八 1:森 佳久山・中野 兆山・林  嵐山・安田疏詠山・栗子照雄山・大川礼峰山・富田 浄山     
 尺 八 2:森田 天山・富田 翰山・黒武者翔山・千島舟静山・鈴木 故山・米山 良山
 箏  1:生村 伸子・山口喜久子・宮田美智子・岡田喜代子・平林 容子
 箏  2:菅井  愛・内野 典子・吉田 麗子・中島 早依
 十七絃箏:渡辺 澄子・奥田惠美子

 この曲は横浜雙葉小学校における邦楽鑑賞会のために作曲いたしました。燦々と光り輝く未来に向かって、学園生活を心から謳歌してほしい・・・との願いを込めて音を綴りました。
 曲は、日本古謡「さくら」のメロディーを主題として用い、箏独奏のカデンツァから始まります。その後、合奏によりそれを変奏・展開させ、また小さなモティーフを自由に発展させつつ、曲は進みます。中間部での尺八独奏によるカデンツァの後、尺八と箏のダブルコンチェルトの形態で、即興協奏曲風に高揚させ、そして私なりの<さくら>を作る事を試みました。               (石井由希子記)


●匠(たくみ) <新作初演>                     坂田誠山作曲

尺八独奏:坂田 誠山

 匠を辞書で調べると、美しいものを作り出す技等と書かれている。尺八の奏法には洋楽器には無い奏法がたくさんある。純粋な楽音から徐々に息の音を混ぜていく音色の変化、極端には息音のみでの演奏など音色の多様性、音程を微妙に変化させる尺八音楽の独特な奏法や間など、それらを巧みに組み込んで演奏することにより、尺八音楽の表現の幅を拡げている。
 この曲は、尺八独特の奏法を意識し、それらを駆使して一つの事に限定することなく、前の音(演奏)から触発される音を辿り、感情の赴くままに曲を進行させるよう試みた。奏法の巧みな組み合わせ、音色の巧みな使い分け等、この曲はそれらの様々な巧み(匠)を意識し、しかも即興的な要素も多分に織り込みながら作曲した。 (坂田誠山記)

●いざない(改訂初演)                     石井由希子作曲

 指揮・尺八独奏:坂田 誠山
 箏独奏:樹本佳音里
 尺 八 1:須藤 香山・奥村 鋒山・正道 E山・毛利 笙山・出沼 智山・図子 佳山
      水落 公尹
 尺 八 2:萩原 蘊山・伊藤 凌山・功刀 幾山・大場 敬三・村石 遥山・遠藤  山・田中錦祐山
 箏  1:梅田佳予子・大塚真知子・鹿島 綾子・鹿島  葵
 箏  2:中村 幸子・中島 純子・大徳 良子・岡部 節子
 十七絃箏:大宮 椎子・石井由希子・神山さよ子

 この曲は1993年、東京尺八合奏団の委嘱で作曲した作品です。
 「いざない」とは、「誘い」の意の雅語的表現です。
 曲は大きく分けて、序・急・緩・急の四つの部分から成り立っています。緩の部分に誘う尺八のカデンツァ、急の部分に誘う箏のカデンツァではソリストのすばらしさを、終焉へと高揚してゆく終結部ではアンサンブルの妙味を味わって頂ければ幸です。
 私にとってこの曲は四曲目の邦楽作品ですが、和楽器にふれればふれるほど奥の深さを痛感し、独特の雰囲気に魅せられてまいりました。和楽器の持つ魅惑的な世界に、皆様をいざなうことができれば……との思いから、この題名をつけました。 
(石井由希子記)




●歌と邦楽による「竹取ものがたり」        西田豊子脚本 石井由希子作曲

 指揮・尺八:坂田 誠山
 ソプラノ:片野坂栄子
 バリトン・語り:石鍋多加史
 かぐや姫・鼓:麻生 花帆
 箏独奏:樹本佳音里
 三味線:在原富士江
 尺八1:須藤 香山・森田 天山・奥村 峰山・冨田 翰山・正道 E山・黒武者翔山・
     毛利 笙山・大川礼峰山・出沼 智山・栗子照雄山・図子 佳山・富田 浄山・水落 公尹
 尺八2:森 佳久山・萩原 蘊山・中野 兆山・伊藤 凌山・林  嵐山・功刀 幾山
     安田疏詠山・村石 遥山・千島舟静山・大場 敬三・鈴木 故山・遠藤  山・米山 良山・田中錦祐山
 第1箏:梅田佳予子・生村 伸子・大塚真知子・山口喜久子・鹿島 綾子・宮田美智子
      鹿島  葵・渡辺 澄子・平林 容子
 第2箏:菅井  愛・中村 幸子・中島 純子・内野 典子・大徳 良子・吉田 麗子・岡部 節子
 十七絃箏:大宮 椎子・岡田喜代子・神山さよ子・奥田惠美子
 打楽器:若月 宣宏
 合  唱:上野混声合唱団
 合唱指揮:田尻 明規
 ソプラノ:井上 恵子・大森 詢子・川嶋 春美・木津由美子・栗原 陽子・関根 玲子
      高崎美恵子・永瀬いち子・福永 雅子・松井千賀子・若林三枝子
 アルト :片山 成子・佐野 幸枝・椎名喜久子・寺井 育子・松崎 絢子・村田 洋子
     森田 君子・吉川さよ子・吉田 輝子
 テナー :有馬  宏・岩本 道雄・清家 忠顕・佐藤 賢一・佐藤 雅規・中山 卓郎・沼野 博
 ベース :石川 文也・菊谷  正・澁川 侶章・須原 久雄・松本 賜郎・吉川 喜也

「竹取ものがたり」に期待をこめて
 平安貴族のきらびやかな世界を伝える『源氏物語』にも、「物語の出てき始めのおやなる竹取」とあるように、竹取物語ははるか昔の物語。しかし、童話や絵本で、かぐや姫の物語として今でも誰にでも親しまれ、十五夜になると、ふと月を仰ぎ見て子供のころを懐かしく思い出させてくれる物語でもある。
 その竹取物語が、書き下ろしの脚本と作曲でお目見えする。それも、筝、三味線、尺八、鼓の和楽器の合奏に、ソプラノ、バリトンに合唱団の西洋音楽の歌唱が加わっている。ミニオペラともいうべき作品なのかもしれない。
 古代と現代、西洋と日本、それらが入り混じった〈ヒュージョン(融合)〉音楽となった「竹取ものがたり」は、どんな味わいをわれわれの脳裏に残してくれるのだろうか。
 「竹取ものがたり」の初舞台を視に、聴きにいく観客の一人として、膨らみ続ける期待は抑えることは出来ない。   
                                           (一フアンからのメッセージ)

 千葉10周年・東京5周年を記念する合同演奏会の記念曲に何を選ぶのかと両合奏団員で検討しはじめたのはちょうど一年前でした。
 まず合奏団員は、誰にでも親しまれている「昔話」を望む人が多く、脚本の西田先生と団員との懇談会では、どの「昔話」が記念曲にふさわしいだろうか、などなど合同演奏会への強い思い入れに触れて胸が熱くなりました。
 私も大編成でしかも長時間に及ぶ曲を手がけられるという未知への挑戦に、大きな喜びと重責を感じながら期待が膨らむばかりでした。
 そして、「竹取物語」の題材が決定してからは、脚本の完成を待つ楽しみと、「竹取物語」が語る平安時代の人々の考え方や暮らしぶりを想像しながら、どんな曲にしていこうかと思考を繰り返していた日々でもありました。やがて出来上がってきた西田先生の脚本の歌や語りには、やさしい言葉ながらも深い意味が込められており、遠くの海原から波が押し寄せてくるがごとく私に迫ってきて、「竹取物語」のイメージが次々と湧き上がり膨らんできました。
 ソプラノ、バリトンの独唱、合唱団の特質や邦楽器の特性を心に描きながら、「竹取ものがたり」を音の世界で表すことに浸りきっていました。 
 はるか昔の平安時代、「竹取物語」はどんな気持ちで語られていたのでしょうか、その次の時代は、また次の時代、そして現代までゆうに千年以上も伝えられているこのお話に、いかなる味わいを加えたら現代に生きる「竹取物語」として甦ってくれるのでしょうか、とわくわくした気持ちを最後まで持ち続けて作曲を完成したのです。
 子供から大人までと幅広い人々を対象に作曲を心がけましたので音楽的にも分かりやすく、さらにコミカルな部分やあふれる情感を皆様にお伝えすることが出来るのではないでしょうか。
 出来上がった曲を助演者のお力や団員の練習の積み重ね、さらに演出のお陰で世界初演という舞台が大きく花開くこととなりましょう。
 脚本家の思い描く「竹取」、作曲者の描く「竹取」、演奏者の描く「竹取」、それぞれはニュアンスに差があるのは当然のことと思います。それと同じように、「竹取」をお聴きいただく観客の皆様もそれぞれの「竹取」を描かれることでしょう。皆様のご感想をお聞きし、「竹取ものがたり」の再演を願っておりますし、また他の題材での曲も生み出していきたいという思いに駆られております。


ご存知のように「竹取物語」は、かな文字で書かれたわが国最古の物語です。
竹取の翁が竹の中に見つけたかぐや姫は、実は月の世界の人。群がる貴公子たちの求婚を無理難題でかわして月へ帰る設定には、平安時代の貴族や知識人に好まれた「神仙思想」の影響が見られ、俗世的な幸福追求への批判がこめられている、とも言われます。
月への憧れと離別の悲哀に彩られるこの物語は、時を越えて愛され、長沢勝俊氏作曲の邦楽「竹取物語」や加藤道夫作演劇「なよたけ」など、多くの名作の素材となっています。

さて、その竹取物語。このたびの脚本化の糸口を探し原作を読み返していた時、私はふと、奇妙な既視感に捉われました。それは、よく知られた貴公子たちの求婚エピソードの後、姫が月へ昇天する前まで。絵本や抄訳では何故か割愛されている、帝とかぐや姫の恋のエピソードです。

■姫の傲慢を怒った帝が翁に、官位と引き換えに姫を参  内させよと命じて…失敗!
■帝はなお諦めきれず狩を装って姫を訪れ恋に落ちるが、  姫は命をかけてもと…拒絶!
■手紙のやり取りが続き、姫は月への帰還の時初めて、   帝を愛しむ気持ちに…気付く!

このくだりで私は思わず、声に出してこう叫んだ気がします。「帝の失恋?恋人に意思がある事も知らない、パソコン青年のジレンマと同じ?!」
それは、帝とかぐや姫の不器用な恋が、便利さや豊かさと引き換えに人間的な感性が萎えていく現代と重なるゆえに、妙な親しささえ伴う、不思議な既視感でありました。
そう思うと竹取の物語が急に身近になり、自分の心に不器用だった帝や姫のつぶやきがそのまま詞になり始めて、脚本化の方向性が定まったのでした。

そう言いつつも作詞と脚本が遅れ、作曲の石井由希子さんには大変なご苦労をおかけしました。しかし、4月末に初めてリハーサルに伺い、大編成の箏と尺八演奏と歌がダイナミックに響きあう、変化に富んで美しい数々の曲に触れることが出来ました。
風のように自在に歌う尺八。さざめく光のように艶やかに歌う箏。三味線。鼓。太鼓。
その音色は、はるかな時を超え祖先たちから受け継がれてきた音楽の力と物語の力を、目覚めさせ引き出してくれるかのような、懐かしさと力強さに溢れていました。